●“高度1万メートルでの通夜”が営まれる機内に流れる、切ないまでに静謐な時
第1章「帰郷」で描かれるのは、セナの遺体が移送される機内の様子。セナの葬儀に参列するため筆者がパリでヴァリグ・ブラジル機に乗り込むと、それが偶然にも彼を故郷に送り届けるフライトであることが判明する。さらに奇しき巡り合わせにより、筆者の席はビジネスクラスに特別にしつらえた祭壇に置かれた柩の前だった──。偶然と呼ぶにはあまりに劇的なこのエピソードがここまで詳細に語られるのは、これまでなかったはずだ。
●「タイトルのためなら躊躇はしない。正義と復讐とは相等しいものさ」
1990年日本GPでのプロスト撃墜が故意であったことは、その1年後にセナ自身が認めているが、第4章「永遠の鈴鹿」では、筆者がいわば「犯行予告」を実行の1カ月以上も前に聞かされていたことが分かる。あれはレース中に憤激が暴走した結果(衝動的に故意)などではなく、完全に「確信犯」だったのである。セナが宿敵への義憤を吐露し、あの復讐劇が「正義に適った行為」であり「勝つためにやらなければならない」と滔々と自説を展開するシーンは本書のハイライトと言えよう。